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キッチンカーの開業に必要な資金とは?キッチンカーのメリットや受けられる補助金
- 公開日:2023年4月28日

コロナ禍に多くの飲食店が廃業に追い込まれた一方で、フードデリバリーやテイクアウトの市場は拡大しました。 それに伴い、店舗を持たず自由に移動しながら営業できるキッチンカーにも注目が集まっています。また、副業としてキッチンカーの経営を始める人も増えてきています。
今回はキッチンカーでの開業を検討しているかたに向けて、キッチンカー経営のメリットと、開業に必要な資金や手続き、資金調達について詳しく解説していきます。
キッチンカー開業のメリット
キッチンカー経営のメリットは様々ありますが、大きく分けると以下の3点です。
- 開業資金が抑えられる
- 営業場所を変えることができる
- 店舗に囚われない運営ができる
開業資金が抑えられる
店舗型の飲食店に比べ、キッチンカーでの開業は初期費用も運営費用も抑えることができます。そのため、少ない費用で高い利益を出すこともできるでしょう。将来的に店舗を持ちたいかたのステップアップとしても最適です。
固定費としてかかるお金は、主に駐車場代と仕込み場の家賃が挙げられます。定期的に店舗の家賃を払うことに比べれば、費用を抑えることができます。水道光熱費についても、店舗に比べれば安く抑えられるでしょう。
また、店舗型の飲食店の場合は、内装工事費や厨房・客室設備費、キッチンカーの場合は、車両費や改造費がかかりますが、相対的にみてキッチンカーの方が安く抑えられる傾向にあります。キッチンカーは短期間のレンタルができるところもあるので、初期費用をさらに抑えることも可能です。
人件費も店舗型に比べあまりかかりません。基本的にワンオペで、人を雇うにしても、スペースの都合上1~2人でしょう。そもそもキッチンカーはテイクアウトを前提とした営業方法なので、1人でも店を回すことができるでしょう。
営業場所を変えることができる
キッチンカーの最大の特徴は、「移動先でできたての商品を提供できる」という点ではないでしょうか。
キッチンカーは、時間帯やイベントなどの日程にあわせ、自ら移動することができます。たとえば以下のように、時間帯や場所でうまくメニューやターゲットとなる客層を変えることもできます。
オフィスビルの敷地内:平日のランチタイムにビジネス街で会社勤めの方々にお弁当を提供する
商業施設入口:夕方に夕飯のお惣菜を提供する
お祭りやフェスなどのイベント:期間中食べ歩きしやすい軽食を提供する
マーケティングと戦略次第で、大きく売上を伸ばすことができるでしょう。
トライ&エラーを繰り返しやすいという点も、店舗型の飲食店にはないキッチンカーならではの特徴です。はじめは経営がうまくいかなくても、さまざまな場所や時間帯で試していくうちに、自身に合った営業方法をみつけることができるでしょう。
店舗に囚われない運営ができる
キッチンカーでの開業であれば、店舗型に比べ開業までの準備期間もかかりません。車両や設備、必要な営業許可などが揃えばすぐに開業することができます。一方、店舗型の飲食店を開業する場合、不動産を探すところから始めなくてはならないため、開業に1年はかかると言われています。
また、業務形態の変更も容易です。店舗型だと頻繁なリフォームはできませんが、キッチンカーであれば比較的簡単に変えることができます。場所や客層に合わせて、お店のメニューや雰囲気をガラリと変えてみるのも良いでしょう。
キッチンカーを営む人は個人事業主のかたが多く、スケジュールを自分で自由に決めることができます。長期間休業することも可能です。出店施設の許可を得て好きな時間に営業すればよいので、自由な働き方ができるでしょう。自分の料理を通じて、さまざまな地域で多くの人との出会いも期待できるので、やりがいも生まれるのではないでしょうか。
キッチンカー開業に必要な手続き
キッチンカーで開業し、営業を開始するためには、「保健所の許可」と「食品衛生管理者の資格」が必要です。 食品衛生管理者の資格は、講習会を受ければ1日で取得できます。
また、万が一のトラブルに備えて、各種保険にも加入しておきましょう。
営業許可「飲食店営業」の取得
営業許可申請
飲食店を開業する場合は、保健所で必ず「飲食店営業」の許可を取得しなければなりません。飲食店営業の許可は、出店する都道府県ごとに申請します。たとえば東京都内で出店するなら東京都、埼玉県内で出店するなら埼玉県の許可を取得します。
申請先は都道府県の保健所、または該当する都道府県内の市区町村にある保健所です。取得費用は地域によって異なりますが、おおむね1.5万円~2万円程度になるでしょう。
また、飲食店営業許可を申請するために、「食品衛生責任者」の資格を取得する必要がありますが、こちらは最短1日で取得できます。
施設検査
営業許可を取得するにあたって、キッチンカーの施設検査があります。これは、きちんと安全に飲食店経営をするための設備基準を満たしているかどうかを確認するものです。
たとえば
- 洗浄設備と手洗設備を分けること(2つのシンクを使い分ける)
- 車内の図面(設備配置図)を記入すること
など複数の項目があり、キッチンカーの営業者立ち会いのもと、保健所の担当者がチェックをします。
また給水タンクの容量によって、キッチンカーの中でできる料理の幅や、提供できる品目数などが異なります。
40リットル:簡単な1工程(温める、揚げる、盛り付けるなど)の調理、使い捨て容器、1品目まで提供可
80リットル:簡単な2工程の調理、使い捨て容器、複数品目の提供可
200リットル:複数工程の調理、通常の食器、複数品目の提供可、仕込み作業が可能
出典:東京都「新たに食品に関する営業を始められる皆さんへ -自動車関連営業許可申請等の手引き-」
https://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/kyoka/files/2019jidousya.pdf
食品衛生責任者の取得
食品衛生責任者の資格は、各地の食品衛生協会でおこなわれる講習会を受講すれば取得できます。17歳以上であれば基本的に誰でも受講することができます。ちなみに調理師や栄養士などの資格を持っていれば、自動的に食品衛生責任者になれます。
東京都の場合は、一般社団法人東京都食品衛生協会が都内複数カ所の会場で、毎月10回前後開催しています。申し込みは郵送で行います。
持ち物は、「受付票、筆記用具、身分証明書、受講料12,000円(教材費込み)」です。
講習時間は、午前9:45~午後4:30までの6時間(テスト含む)です。
- 食品衛生学 2時間30分
- 公衆衛生学 30分
- 食品衛生法 3時間
一般社団法人東京都食品衛生協会「食品衛生責任者会場集合型養成講習会」
https://www.toshoku.or.jp/training/
※上記の情報は2023年1月時点の情報です。
有事に備え保険に加入
キッチンカーの営業では、誤って異物が混入してしまったり、食中毒を起こしてしまったり、お客さまにコーヒーをこぼしてしまったり、また交通事故を起こしてしまうなど、さまざまな事故が想定されます。これらの事故が起こった際に補償があるPL保険(生産物賠償責任保険)や施設賠償責任保険、自動車保険などに加入しておくと、いざというときに安心できます。
キッチンカー開業に必要な資金
次に、キッチンカーの開業に必要な資金について解説します。 起業する際は「開業資金+運転資金の3カ月分くらい」を用意しておくと、安心して事業をスタートできるでしょう。 以下の情報を参考に、ご自身のキッチンカー開業にかかる費用を計算してみましょう。
開業資金
開業資金とは、開業時にかかる設備資金と運転資金のことです。 設備資金とは、事業を開始するために必要な設備を購入するための資金です。 設備とは、機械設備や車両、お店の内装、什器備品などのことで、一度購入したらしばらく使い続け、頻繁に購入する必要のないものを指します。 運転資金とは、日常的な収入と支出のズレに対応するために必要な資金のことです。 仕入れ代金や家賃、人件費などの日常の支払いが、売上入金よりも先行する場合、売上金が入ってくるまでの支払用のつなぎ資金としての意味合いがあります。
設備資金
キッチンカーの設備としては、車両と厨房設備、車両の改造費などです。設備資金の目安は、150~500万円程度です。新車で購入するのであれば200~500万円程度となる一方、中古車なら金額を抑えることができます。
車両 | 100~500万円程度 |
---|---|
車両の改造費 | 100~300万円程度 |
調理用機器 | 20~50万円程度 |
(総額) | 220~850万円程度 |
また設備費用ではありませんが、初期に許認可に係る費用として次のものがあります
保健所の営業許可「飲食店営業」の取得 | 1.8万円程度(東京都豊島区の場合。自治体により費用が異なります) |
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食品衛生責任者の資格取得 | 1.2万円(東京都の場合) |
運転資金
キッチンカーにかかる運転資金は次のようなものです。
- 仕入
※飲食業では、原価率は30%にするのが指標の一つです。 - 水道光熱費
- ガソリン代
- 駐車場代
- 出店料
- 広告宣伝費
- 販売手数料
- 保険料
など
運転資金は月にかかる費用の3か月分はあると良いでしょう。6か月分あると余裕を持った開業ができます。
キッチンカー開業で資金を準備する方法
資金を準備する方法は、主に3つあります。
(1) 自己資金を準備する
自分で貯蓄したお金で、開業資金を準備する方法です。
(2) 融資を受ける
開業資金を金融機関から借り入れる「融資」も一般的な方法です。融資には返済義務があるため、専門家や担当者にしっかりと相談し、計画的に利用しましょう。
これから開業する場合は、日本政策金融公庫の「新創業融資制度」がおすすめです。担保・保証人が不要で最大3,000万円(運転資金1,500万円)の融資を受けられる制度になっています。
【新創業融資制度】
新たに事業を始めるため、または事業開始後に必要とする設備資金および運転資金を無担保、無保証人で融資をする制度です。
- 対象者の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を2期終えていない方 - 自己資金の要件
新たに事業を始める方、または事業開始後税務申告を1期終えていない方の場合は、「創業時に、創業資金総額の10分の1以上の自己資金を確認できる方」 - 融資限度額
3,000万円(うち1500万円は運転資金)
日本政策金融公庫「新創業融資制度」
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/04_shinsogyo_m.html
(3) 補助金・助成金を活用する
補助金や助成金は、各制度の目的に沿った取組みをしている事業者に対し、経費の一部が支給される制度です。借入金とは異なり、返済義務がありません。 その代わり、該当するすべての要件を満たし、審査に合格しなければなりません。
また補助金・助成金は、支給されるまでに時間がかかります。原則「後払い」になるため、はじめにある程度ご自身で資金を用意しておく必要があるので、注意しましょう。
キッチンカー開業で受けられる補助金・助成金
キッチンカーは従業員も少ないため、基本的に「小規模事業」になります。今回は小規模事業者が活用できる補助金・助成金をご紹介します。
小規模事業者持続化補助金
小規模事業を行う事業者(本事業の場合は、常時使用する従業員数が5人以下)を支援する、経済産業省による補助金です。 持続的な経営に向けた経営計画に基づき、販路開拓や業務効率化の取り組みを実施した小規模事業者に対して、機械装置等費や広告費などの経費の一部を補助する制度です。キッチンカーの車両購入費としては利用できませんが、キッチンカーの内装・外装および、宣伝広告費などの広報費や販路開拓を行うためのウェブサイト構築に要する経費などを対象経費として利用ができます。
- 全国商工会連合会「小規模事業者持続化補助金」
https://r3.jizokukahojokin.info/
地域雇用開発助成金
仕事が少ない地域に雇用機会をつくる取り組みを支援するための、厚生労働省による助成金です。 雇用機会がとくに不足している地域で事業所の設置・整備をおこない、その地域に居住する求職者を雇用したときに、事業所の設置・整備に要した費用と増加した人数に応じて一定額を助成する制度です。
たとえば設置・整備費用が300万円〜1,000万円、増加した対象労働者が4人以下、かつ生産性要件を満たした場合は、60万円が助成されます。
- 厚生労働省「地域雇用開発助成金(地域雇用開発コース)」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/kyufukin/chiiki_koyou.html
まとめ
キッチンカーは、自己資金が少なくて悩んでいる人や、はじめての飲食店を開業しようとしている人におすすめの業務形態です。開業資金は工夫次第で安く抑えることもできますし、融資や補助金・助成金などを活用することで、自己資金が少なくても十分に経営することができます。またキッチンカーの人気や需要は、これからも続いていくでしょう。ぜひこの機会に、キッチンカーでご自身の夢のお店を開業してみませんか。
執筆者プロフィール:
中野 裕哲
税理士・特定社会保険労務士・行政書士起業コンサルタント®・CFP®V-Spiritsグループ代表
年間約300件の無料相談を受ける。 経済産業省後援DREAM GATEで11年連続相談件数No.1。 「相談件数No.1のプロが教える 失敗しない起業の法則55」ほか、起業に関する著書多数。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。