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顧問税理士の選び方とは?依頼できる業務や顧問契約するメリット・デメリットも解説
- 公開日:2021年12月16日

中小企業にとって、顧問税理士は身近な存在です。税理士は、税金に関する相談や税務申告に対する支援などが本来業務である専門家ですが、顧問税理士を上手に活用している企業は、経営に関わる幅広いアドバイスを顧問税理士から引き出し、自社の経営改善に役立てています。ここでは、顧問税理士に依頼できる業務や顧問契約するメリット・デメリット、顧問税理士の選び方を解説します。
顧問税理士とは
顧問税理士とは、特定の企業との間で顧問契約を結び、契約先企業の税務業務に対して、アドバイスや代行をおこなう人のことを言います。
顧問税理士に依頼できる業務
顧問税理士には、税務業務に加えて、会計指導や年末調整、給与計算、節税対策などの税務に付随した業務、経営面に対するアドバイスなどを依頼することができます。なかでも、税務業務(税務代行、税務書類の作成、税務相談)は税理士の独占業務であり、有償・無償を問わず税理士にしかできない業務です。
税務代行
顧問税理士に依頼できる業務に、法律で定められたルールに則った正しい会計処理をした上で納税しなければならない税額を正確に計算して期限までに納税をおこなう、という税務業務全般に対するアドバイスや代行があります。
正しく会計処理をおこなうためには、帳簿記入や仕訳(取引によって生じた収支を勘定科目に分類した上で記録すること)、給与計算などの業務を適確におこなう必要があるのですが、それに対するアドバイスや代行・教育もおこなってもらえます。
税務書類の作成
税務申告をおこなうために必要な申告書や決算書、そのほか税務申告に必要な書類の作成に対するアドバイスや代行も顧問税理士に依頼可能です。
加えて、経営者や従業員の所得税額を確定するための年末調整の実施や、納税地や納税方法の変更などをおこなうときに必要な税務署への申請に関しても、アドバイスや代行をお願いできます。
税務相談
企業が税金の有利不利を判断した上で経営の意思決定をおこなうにあたっての予定納税額の計算や税制上のメリットを得る方法などを顧問税理士からアドバイスしてもらえます。
加えて、企業が納税や投資に必要な資金を調達する場合の調達先や調達方法の選定、事業計画書の作成などに対するアドバイスも依頼できます。
経営相談
顧問税理士の中には、税務に関するサポートだけに止まらず、経営全般に関するサポートを対応している方もいます。個人の起業や企業の新会社設立、事業承継などに関して、税務上の影響を計算した上で、リスクの少ない方法や進め方などをアドバイスしてもらえます。
さらに、企業の経営そのものを良くするためのアドバイスをしてくれる顧問税理士もいます。
顧問税理士を契約するメリット
顧問税理士を契約した場合の主なメリットは、以下の3つです。
- 経営者や経理担当者が本業に専念できる
- 金融機関や取引先からの信用が高まる
- 税務調査への対応がしやすくなる
経営者や経理担当者が本業に専念できる
企業としての活動をおこなう場合、会計や経理に関係した業務が必ず発生します。お金の流れや会社の業績を見える化し、納税額を正確に計算して記録を一定期間社内で保管することが法律で義務づけられているからです。
一方、これらの対応は、決められたルールに則って処理する必要があり、専門的な知識を有した上でおこなわなければならないので、その業務を担当する経営者や経理担当者の負担が大きくなります。
顧問税理士を契約して、顧問税理士にこれらの業務を代行してもらうことで、経営者に関しては経営の管理や営業の推進など、経理担当者に関しては管理会計や経費適正化の推進などの本業に専念することができるようになります。
金融機関や取引先からの信用が高まる
企業としての活動を続けていく場合、金融機関などから資金を調達し、取引先を開拓することが必要になることがあります。金融機関や取引先は、会社の数字を見た上で今後のリスクを判断し対応を決めるのですが、顧問税理士がおり、その人が会社の数字にお墨付きを与えたということが分かれば、信用度が向上し、資金の調達がしやすくなる、取引の開始がしやすくなるといったメリットが生じます。
税務調査への対応がしやすくなる
税務署は、管内の企業を対象に、不定期に税務調査をおこないます。税務調査とは、正しい会計処理のもとで、正確な税務申告がおこなわれているかを確認する行為です。税務調査がおこなわれる場合、税務調査官が企業に出向き、企業が保管している帳簿や領収書などの書類を確認しながら、適正な会計処理がおこなわれているかどうかを細かくチェックします。
その際、税務調査官は、企業の経営者や経理担当者に対して直接的な確認をおこないますが、それに対して、税務に関する専門的な知識やノウハウのない経営者や経理担当者が適切な(自社にとってのリスクを最小化する)説明をおこなうのは簡単なことではありません。このとき、顧問税理士がいれば、税務調査の場に同席した上で適切な説明をしてくれるため、経営者や経理担当者の負担が軽減されます。
顧問税理士を契約するデメリット
反対にデメリットは、以下の3つが考えられます。
- 毎月顧問料が発生する
- 顧問税理士とのやり取りのための時間が生じる
- 顧問税理士に任せっきりになると経営者が会社の数字を把握しづらくなる
個人事業や社内に税務や経理に関する専門的な知識を有した人材がいる小規模会社に関しては、顧問税理士を契約しなくても支障のない場合があります。
毎月顧問料が発生する
顧問税理士を契約することで、毎月定額の顧問料の支払いが発生します。加えて、決算時には、顧問料とは別の支払いが発生することが一般的です。
顧問税理士とのやり取りのための時間が生じる
顧問税理士は社内に常駐していないので、税務や経理に関する業務を任せた場合、顧問税理士からの確認のための問合わせに対して、経営者や経理担当者が都度対応する必要があります。複雑な事案の場合は、やり取りの頻度も増えるため、経営者や経理担当者の負担も考慮しておきましょう。
顧問税理士に任せっきりになると経営者が会社の数字を把握しづらくなる
経営者は、会社の数字を的確に把握した上で今後の経営に対して最適な判断をしていかなければなりませんが、税務や経理に関することを顧問税理士に任せっきりにしてしまうことで、経営者が会社の数字を把握しづらくなってしまう場合があります。そうなることで、リスクの回避ができなくなる、ビジネスチャンスを逃してしまうなどの結果が生じ、経営に対して悪い影響を与えてしまいます。
税務や経理の業務は顧問税理士に任せても、会社に関する数字は目を通して、正確に把握するようにしましょう。
顧問税理士の契約形態
顧問税理士の契約形態に関しては「業務委託契約」が一般的です。業務委託契約というのは、「委託を受けた業務を相手に代わっておこなうことに対して決められた報酬を払う」契約形態です。
雇用契約ではないため、企業は顧問税理士に対して、依頼した業務の進め方や実施時期などに対して直接的な指示をおこなうことはできません。
顧問税理士のスポット契約とは
顧問税理士との契約には、定期的に業務を依頼する形ではなく、依頼したいときにスポット(単発)で契約できる形態もあります。
日々の会計処理は自社単独でおこなえるが決算に関しては税理士の力を借りたい、経理システムの適正化を実現するにあたって専門的な知識を有する税理士の力を借りたい、といった単発での対応をお願いするケースです。
近年、そのようなスポット契約への対応を積極的におこなう税理士事務所も増えています。
顧問税理士の費用はどう決まる?
顧問税理士を契約したときの月額の顧問報酬は、主に法人か個人事業主か、会社の売上規模、顧問税理士の訪問回数などによって金額が異なるようです。
月額の顧問報酬の中で対応してもらえることは、税理士によって異なりますが、月ごとの試算表(売上や経費、利益の発生内容を取りまとめた書類)の作成や日々の会計処理が適正におこなわれているかどうかの確認、経営や税務に対するアドバイスなどです。
月額の顧問報酬で対応すること以外の代行業務はオプションで別途費用を設けていることがあります。オプションの例としては、
- 決算書の作成と確定申告
- 給与計算(従業員ごとに、毎月の支払い給与に対する税金と社会保険料を計算して手取り金額を確定させる作業)
- 年末調整(従業員ごとに、年間の所得税額を確定させる作業)
- 記帳代行(売上や経費を簿記のルールに則って仕訳した上で帳簿に記入する作業)
があります。
顧問税理士の契約費用を安く抑えるには
顧問税理士の契約費用を安く抑える方法として考えられるのは、自社でできる作業は自社でおこなうことです。
経営者や従業員が簿記の勉強をして正しい会計知識を身につければ、日々の会計処理や帳簿記入、年末調整の作業は、税理士に依頼しなくても自分たちで対応できます。給与計算も、会計や社会保険料の知識を身につけ、あるいはソフトを活用すれば、税理士に依頼しなくても自分たちで対応が可能です。
実際に、作業が複雑な決算と確定申告のときにだけスポットで税理士に依頼をしている会社もあります。
税理士登録後間もない税理士の中には、「実績を積むために少しでも多くの仕事をこなしたい」と考えている人がたくさんいます。そのような税理士に依頼をすれば、相場よりも安い費用で引き受けてくれる可能性もあります。
月額の顧問報酬だけの契約を受け付けていない税理士の方もいます。その場合は、決算や申告、給与計算、年末調整、記帳代行などの各種代行作業をおこなうこととそれぞれに対するオプション費用を契約の中に盛り込むことを前提としています。
失敗しない顧問税理士の選び方
うまくいく税理士を選びポイントは、以下の3つです。
- コミュニケーションが取りやすいか
- 報酬料金体系が明瞭か
- スキルがマッチしているか
コミュニケーションが取りやすいか
顧問税理士を契約したからには、長くお付合いできることが望ましいです。心配事が生じたときに、いつでも顧問税理士に相談し、その都度最適なアドバイスをもらえる関係性であることが理想です。よって、話しやすい相手であることや、相手の言うことが分かりやすいなど、自分との相性が良いことを見極める必要があります。
また、顧問税理士と定期的にやり取りをすることになりますので、コミュニケーションの手段も、自分の使いやすい方法で対応してもらえるのかということも重要です。電話やメールでのやり取りが一般的ですが、ビデオ会議やチャットツールなども活用したいのであれば、顧問税理士も、それらのツールを使ったやり取りに応じてくれることが前提となります。
報酬料金体系が明瞭か
顧問税理士との間で生じるトラブルの一つに、料金を巡る問題があります。会社側は月額の顧問報酬の中でやってもらえることだと思っていたのに、顧問税理士から別途報酬を請求され、トラブルに発展するという内容です。
このようなトラブルを防止するために、月額の顧問報酬の中で対応してもらえること、対応できないことに関する作業ごとの報酬額が具体的かつ細かく設定されていることを事前に確認しましょう。
スキルがマッチしているか
報酬を払って業務を依頼するので、自分が求めていることに対して確実に対応してもらえるのかどうかを確認する必要があります。日々の会計処理の結果を最適な経営判断をおこなうための材料として活用したいのであれば、それに見合った資料を作れるスキルを備える税理士と顧問契約することが望ましいです。
給与計算のデータを会社の会計ソフトに落とし込みたいのであれば、ソフトを使いこなすスキルがある税理士がよいと考えられます。
自分が求めていることに対する充分なスキルがあるのかどうかを見極めて顧問税理士を選ぶようにしましょう。
まとめ
顧問税理士は、自社の経営に関する数字を正確に知ることを手伝ってくれる専門家です。よって、単に税務業務の代行をしてもらう相手としてではなく、自社の方針を理解してもらった上で、自社のためになるアドバイスをしてくれる経営パートナー的な存在でいてもらうことが、会社の発展につながります。顧問税理士の活用を検討するにあたって、自社にとってどのような存在でいてもらいたいのかを明らかにすることが、自社に対するメリットを多く生み出します。
執筆者プロフィール:
大庭 真一郎(経営コンサルタント・中小企業診断士・社会保険労務士)
大庭経営労務相談所 代表。東京都出身。東京理科大学卒業後、民間企業勤務を経て、1995年4月大庭経営労務相談所を設立。「支援企業のペースで共に行動を」をモットーに、関西地区を中心として、企業に対する経営支援業務を展開。支援実績多数。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。