法人のお客さま 経営TIPS
飲食店開業に必要な手続き、資格、資金まとめ
- 公開日:2021年12月16日

日々修行を重ね、夢にまでみた飲食店の開業。いよいよ開業という段階で最も頭を悩ませるのが、越えなければならない数々の準備です。本記事ではそんな飲食店を開業したいと考える方々に向けて、飲食店開業までの流れや準備事項、必須資格、必要な手続き、かかる資金などを簡潔にまとめて解説します。
飲食店を開業するのに必要な資格
飲食店を開業する上で必要となる資格は主に以下の2つです。
食品衛生責任者
飲食業を営業する場合、食品衛生上の管理運営に該当するため、必ず各店舗に食品衛生責任者を置かなければなりません。そのため、オーナー自身が食品衛生責任者となるか、スタッフの中に1名、食品衛生責任者がいる必要があります。
なお、調理師や栄養士などの資格をもっていれば、自動的に食品衛生責任者になれますが、これらの資格がない場合、各地の食品衛生協会のおこなう講習会を受講すれば資格を取得できます。たとえば東京都の場合、一般社団法人東京都食品衛生協会が都内8~10箇所の会場で毎月開催しています。受講料は12,000円、合計6時間の講義です。
出典:一般社団法人東京都食品衛生協会|受講要領
防火管理者
防火管理者とは、『多数の者が利用する建物などの「火災等による被害」を防止するため、防火管理に係る消防計画を作成し、防火管理上必要な業務(防火管理業務)を計画的に行う責任者』のことです。
引用:一般社団法人日本防火・防災協会|防火・防災管理講習
収容人員(従業員含む)が30名以上の店舗の場合、防火管理者を専任する必要があります。一方で、収容人数が30名未満の店舗の場合、防火管理者は不要です。ただし、商業施設やテナントビルなど不特定多数の人が出入りする用途の建物の場合は、建物全体の収容人数が30人以上だと、自店舗の収容人数が30人未満だとしても防火管理者が必要になります。
防火管理者には甲種、乙種の2種類があり、以下の表のとおり、延べ床面積により専任が必要な資格が異なります。
特定用途の防火対象物の場合

非特定用途の防火対象物の場合

防火管理者になるには各地の消防署などで実施している講習会を受講する必要があります。受講費は3,000円~5,000円程度です。受講期間は甲種で2日間、乙種で1日です。
参考:東京消防庁|<試験・講習><防火管理講習・防災管理講習>
飲食店開業に必要な費用
飲食店開業にはどのくらい資金が必要になるでしょうか。たとえば、10坪程度の店舗で、何もない状態の物件(以下、スケルトン)だとしても、1,000万円以上かかることもあります。居抜きの店舗だとしても、残されたものがそのまま使えればよいのですが、壊れていたり店舗の雰囲気に合わなかったりした場合、撤去や入替えに予想以上に費用がかかる場合も。では、どのような費用がかかるか、一般的な例を中心にみていきましょう。
物件取得費用
飲食店を開業には店舗にする不動産物件が必要です。ひとつの選択肢として自宅を改装し店舗とすることもできます。店舗取得に対する費用はかからないという利点がある一方で、住宅街で居酒屋を開業したとしても集客に苦労する場合が多く、事業として成り立ちにくいことも想定されます。一般的に、集客が見込める駅前や中心市街地などで物件を借りることが多いのはそのためです。
物件を借りるには、敷金や保証金、仲介手数料、前払賃料、保証会社への保証料、火災保険料、カギ交換代などが必要です。敷金や保証金は地域や物件によりますが、賃料の1ヵ月から10ヵ月分が必要です。10坪程度の物件で坪単価が2万円とすると、賃料は20万円、敷金は10ヵ月分として200万円、前払賃料と仲介手数料は1ヵ月分が相場です。
店舗投資費用
飲食店開業には上記の物件取得費用以外に、次のような初期費用がかかります。
内外装工事
スケルトンの場合は給排水や電気、ガス、吸排気、空調、床、壁、各種造作、看板などすべての工事を一からおこないます。スケルトンの場合、費用の目安として1坪50万~100万円くらいといわれています。居抜きの場合でも多くの場合、何かしらの工事が発生します。
造作譲渡
造作譲渡とは、居抜き物件の場合に発生する費用で、前のオーナーが置いていったものを買取る費用です。
金額の根拠はあまりなく、オーナーの言い値になるのが一般的です。前オーナーからみれば、処分代が節約できるだけでもプラスであり、交渉次第で造作譲渡の金額自体はゼロの場合もあります。ただし、使えるものと使えないものの見極めをよくしておかないと後から余計な出費が増えることもあり得るので注意が必要です。
特に調理厨房器具の場合はあとどのくらいの期間使えそうか、プロに状態を見てもらうといいでしょう。
厨房器具
シンクやIH、コンロ、冷凍冷蔵庫、製氷機、食器洗い乾燥機、衛生機器、コールドテーブルなど調理に必要な機器の購入費用と設置、調整、試運転費用が必要です。中古品も出回っており、質のよいものであれば新品同様のものが安く入手できる場合もあります。ただし、機器によっては後で故障するリスクもあるため、よく見極めましょう。
客室備品
お客さまが飲食するスペースに必要なテーブルやイス、インテリアなどの備品です。これらの備品はこだわると高額になりがちです。
食器・消耗品類
お客さまに料理を提供するときに使う食器や消耗品です。高級な業態ほど食器へのこだわりが出てきますので、コスト高になりがちです。
システム
注文を受けるオーダリング端末やキッチンプリンター、会計をおこなうPOSレジ、スタッフのシフトを効率的に組むレイバースケジューリングシステム、勤怠を管理する勤怠管理システム、クレジットカードや電子決済端末、給与計算システムや会計システムなどがあります。
これらはクラウドで提供しているサービスも存在します。必ずしもすべてが必要になるわけではなく、手書きでの対応やアウトソーシングすることで導入しなくても済むものもあります。
WEBサイト
自社オリジナルのWEBサイトです。食べログやぐるなびなどのポータルサイトだけでよいという飲食店オーナーもいますが、WEBサイトは名刺代わりのものです。店舗が気になった方はWEBサイトを見にきますので、最初からあったほうがいいでしょう。WEBサイトは簡易的なものは数万円から、凝ったものであれば数十万から100万円台のものまで、依頼先により大きく変わります。補助金をうまく活用して作成する方法もあります。
運転資金
飲食店の運転資金としては、賃料や人件費、食材仕入れ、広告費、通信費、水道光熱費などがあります。開業当初は予定通りの売上が上がらないことも多いため、余裕をみてこれらの資金の3~6ヵ月くらいの費用があると、安心できるでしょう。
資金ゼロで開業できるのか?
融資を考えると自己資金0円で開業はあまり現実的ではないというのが実状です。飲食店開業を考えたら少額ずつでもいいので貯金をしましょう。足りない場合は家族や親せきからもらったお金も自己資金としてみてもらえる場合があります。このようにかき集めた自己資金をもとに創業融資を受けることも可能です。個別の状況にもよりますが、開業にかかる総費用の1/3を自己資金として準備できると、2/3を創業融資で調達することも現実的になります。さらには各種の補助金もあるので上手に活用していきましょう。
飲食店開業で利用できる補助金
開業時に使える補助金として小規模事業者持続化補助金があります。お店の開業に必要な設備や内装工事、販売促進にかかる費用を最大で100万円補助が受けられます。小規模事業者持続化補助金(一般型)は基本的に50万円が補助上限ですが、創業間もない事業者(現行の制度では2020年1月1日以降の開業の個人事業主と法人)の場合、100万円に上限が引上げられます。事業承継・引継ぎ補助金やIT導入補助金といった補助制度も、要件に合えば利用することができます。
ただし、補助金には注意点があります。まず補助金は採択されないともらえません。外部有識者により事業計画書などの応募内容が審査され、パスするともらえる権利が得られます。次に補助金に採択された後、先に対象となる経費を自分で支出し、半年~1年後になってやっとお金が入ってくるという性質なのです。そのため、補助金をフル活用するとしても、前述の融資などでお金を先に調達しておく必要がある点を十分に注意しましょう。
飲食店開業の流れ
飲食店開業までの流れは次のとおりです。こちらは個人事業主を想定したものとなっております。不動産契約と工事、許認可、融資、開業届という軸で、それぞれ何をどのタイミングでおこなうか一般的な流れを記しています。
ポイントは、融資をいかに早く決定までもっていくかです。融資の決定があることにより物件の審査も有利に進み、融資が決定していることで安心して物件を契約することができます。

飲食店を開業する場合、店舗のコンセプトを設計し、事業計画書を作成します。店舗のコンセプトは内外装工事や設置する設備、店舗のオペレーションなどさまざまな要素に影響します。コンセプトを明確にしたら、事業計画書に落とし込んでいきましょう。
コンセプト設計
コンセプト設計は次の要素で決定します。
- ターゲット
想定しているターゲット顧客は誰なのか、どのターゲット層に提供していきたいのかを明確にします。 - 出店エリア・立地
会社員をターゲットにしているのに、ファミリーが多い住宅地のエリアに出店しては狙った集客は見込めません。想定しているターゲットが集まりやすいエリアなのかどうかを検証しましょう。 - メニュー
ターゲット層に合わせた食材や調理方法、ボリューム、提供方法、食器などを検証します。 - 外装・内装
想定しているターゲットが喜ぶ店舗の作りはどのようなものかを検証します。
事業計画書
いくらコンセプトがよかったとしても、売上・利益が出なければお店を続けられません。まずは年間の収益目標を立てましょう。それから「月間→週間→デイリー」と数値を落とし込んでいくと、現実的な目標数値を把握することができます。収益目標は客数と客単価に分け計画します。人件費や広告・PR費用などのコスト管理も収益目標を達成するには不可欠です。
物件選定
一般的に物件の選定には時間を要します。オフィス物件と比べ飲食ができる物件は数が限られるためです。エリアを限定的にしていると特に物件数が限られます。不動産会社に頻繁に足を運び、仲良くなって物件が出てきたらすぐに情報をもらえるようにしておきましょう。物件選定に時間がかかることで、不動産会社から費用を請求されることはありません。かかるコストとしては交通費や自身の時間程度です。
情報源として、なるべく数多くの不動産会社とつきあっておくのもひとつの手段です。
資金調達
飲食店開業に伴う資金調達手段としては、
- 自己資金
- 身内や縁者・友人などからの借入れ・贈与
- 金融機関からの借入れ
- クラウドファンディングでの調達
- 補助金や助成金
などが考えられるでしょう。
ただし、2については、創業融資を借りる際に自己資金として認められるかどうかが焦点になるので、貰い方がポイントになります。また贈与の場合には、贈与税が発生する可能性もあります。このあたりのことをクリアにするためにも、事前に起業に詳しい税理士に相談しておくことをおすすめします。
4を活用しておく方法もおすすめです。たとえば、リターンとしてオープンしたら5,000円の食事券として使えるクーポンを2,500円で募集しておくなどです。広報手段として事前にファン層を集めておけると同時に、この先の売上もある程度確保しておけるという効果があります。
メニュー開発
メニュー開発で必要になる資金は、開発用の食材費や調理器具、調理場のレンタル費用、光熱費などです。試作の回数とメニューが増えると、開発費もあわせて増えていきます。食材費については継続取引が前提の場合、サンプルとして提供を受けることもできるので、食材業者と相談しましょう。
店舗施工
店舗施工にあたり、店舗のデザインと設計が先に必要です。これはデザイン会社や設計会社が入る場合があります。デザインや仕様の打合わせに時間を要することが多く、デザインが上がるまでに1ヵ月かかることもよくあります。また、デザイン会社や設計会社が入る場合は、デザイン費用・設計費用が別途必要となります。
デザイン会社が入らない場合でも工務店の設計に2週間はかかることが大半です。デザインや仕様が固まってから工事を発注します。10坪程度でしたら早い施工会社なら2週間程度で引渡しが受けられるでしょう。施工費用の目安は1坪50万~100万円くらいといわれています。デザイン会社や設計会社が入るとやや高めの監理費用が加わることが多いので、見積をよく確認しましょう。
厨房設備・什器の準備
店舗デザイン・設計の段階で、厨房機器や什器についても仕様が固められます。厨房設備については厨房機器販売会社、什器はインテリア店が中心となるでしょう。デザイン・仕様にもとづき、厨房機器販売会社とインテリア店が見積します。
厨房機器販売会社は中古品をもっている場合があるので、相談してみましょう。厨房設備や什器は既製品の場合はおおむね1週間程度、オーダーメイドの場合は1~3ヵ月の期間がかかります。見積は無料で対応してくれる会社がほとんどです。
機器の購入代金だけでなく、搬入設置・調整、試運転といった費用が必要な場合もありますので、よく見積を確認しましょう。
開業に必要な手続きの届出
飲食店を開く場合、保健所へ「食品関係営業許可」を申請しなければなりません。では、手続きの流れを見ていきましょう。
- 事前に相談
- オープンの10日前までに許可申請
- 保健所の立入り調査
飲食店の営業許可の申請は、店舗場所を管轄する保健所でできます。保健所では、必要な店舗設備や許可手続きの流れ、そのほかの注意点について事前相談が可能です。店舗の完成予定図面ができたら相談にいきましょう。手書きの簡単な図面も相談は可能ですが、完成予定図面のほうが設備に足りない物や配置などについてより正確なアドバイスを受けられます。後で必要となる営業許可申請書なども保健所でもらうことができます。
オープンの10日前までには営業許可申請書や、設備の大要・配置図などを保健所に提出しにいきます。
保健所による施設の立入り調査は、共通基準と特定基準にもとづいておこなわれます。
「共通基準」とは飲食店をはじめすべての食品関係の業種に必要な基準、「特定基準」とは飲食店向けに定められた基準です。
主なポイントは、以下の3点です。
- 清潔で安全な施設か
- 壁や天井は清掃しやすい構造か
- 手洗い設備はあるか
これらの基準に適合しなかった場合は、指摘された内容を改善して、再度許可申請をおこないます。そうならないために、保健所での事前相談をしてよく確認しておきましょう。
食品関係営業許可以外でも飲食店開業に関わる手続きを以下にまとめました。

※ 個人事業での開業を前提として記載しています
ほかにも、
防火対象設備使用開始届(消防署)……建物や建物の一部を新たに使用する場合に必要だが、ほとんどのケースは内装を手掛ける業者が届出る
風俗営業許可(警察署)……接待行為をともなう場合
社会保険加入手続き(社会保険事務所)……個人は任意だが、法人は強制
など、必要に応じて届出をすることになります。
スタッフ採用
スタッフの募集には、
- 知合いへの打診
- 知合いからの紹介
- ハローワークの活用
- 人材採用メディアの活用
などがあります。
1~3は費用をかけずに採用活動を進めることができます。ただし、ハローワークを利用するには雇用保険事業所番号が必要になるので、1人でも採用をおこない、番号を取得してから利用ができます。
4は無料のものや有料のもの、アルバイトに強いもの、正社員に強いものなどメディアにより特徴があります。有料メディアの場合数万円から数十万円程度まで、広告で課金される場合があるなどさまざまです。
プレオープン
晴れてオープンが決まったらオープンの1~2週間前を目安にプレオープンをおこないます。プレオープンの目的は、スタッフにオペレーションを慣れさせ、想定通りにおこなえるか検証するために実施します。プレオープンはオペレーションが不慣れなスタッフの練習の場であるため、スタッフの家族や親せき、顧問税理士、知合いなどの近しい関係の方々にお客さま役となってもらいます。一般的にお客さま役の方からはお金はいただかないため、提供した分の食材費やスタッフの人件費、光熱費などがかかります。
開業
晴れてオープンとなります。事前に告知ができていたとしてもまだまだ十分ではない場合が大半です。周辺地域へのポスティングや店頭でのビラ配りなどをおこない、店舗の告知につとめましょう。ここではビラやチラシの費用と配布する要因の人件費、外部に委託する場合は外注費がかかります。
自宅でカフェや飲食店を開業するには
自宅でカフェや飲食店を開業する場合でも飲食業許可や手続き内容は変わりません。場所や工事内容によっては建築確認が必要になる場合がありますので、施工会社に確認しましょう。
まとめ
飲食店開業にはさまざまな手続きがあり費用もかかることがお分かりになったでしょう。資金については、自己資金だけでは限界があり、融資や補助金といった資金調達に頼ることが大半です。どのような店舗にしたいかといったコンセプトづくりと並行し、事業計画書の作成や資金調達の準備も進め、スムーズな飲食店開業を目指しましょう。飲食店開業においてはスケジュールの前後関係の判断が難しいという面もあります。事前に起業に詳しい税理士に相談しておくことが賢明です。
執筆者プロフィール:
中野 裕哲(税理士・特定社会保険労務士・行政書士起業コンサルタント(R)・CFP(R))
V-Spiritsグループ代表。年間約300件の無料相談を受ける。経済産業省後援DREAM GATEで10年連続相談件数No.1。「相談件数№1のプロが教える 失敗しない起業の法則55」ほか、起業に関する著書多数。
上記内容は、執筆者の見解であり、住信SBIネット銀行の見解を示しているものではございません。